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『クリスマスの奇跡』 Written by kaz

それは、雪のちらつく公園のベンチの上。
寒さに耐えて丸くなる一匹の黒猫がいた。

彼は産まれてからずっと、この公園で過ごしていた。
何度か子供たちに抱かれて、一時のぬくもりを感じた事もある。
それでも、やはり薄汚れた黒い身体では、
連れていってくれる事はなかなかなかった。

--せめて、こんな寒い日は……
「あたたかいものが欲しい」
黒猫は、思わず口にした。

その時、まばゆい光と共に、
赤い服を着て、背中に羽根のある何者かが目の前に現れた。
黒猫は光で細くなった目を見開いて、聞く。
「君は誰?」

「私は、天使。君をずっと昔から知ってる。
君の願い、叶えてあげるからついてきて」
天使は、街の方へ向かい始めた。
黒猫は街が嫌いだったので、躊躇してしまう。
街は人は多いし、忌み嫌われる事もある。

「はぐれないように、ついてきてね」
天使は、念を押すように言った。

しばらく歩くと、街が近づいてきたせいか人間を感じる。
少し離れた雑踏も、家の塀に張られたポスターも、人間を感じるものだった。
黒猫は急に怖くなって、歩みを止めそうになる……
「大丈夫だよ、私がついてるからね」
……何度もこのやり取りをしながら、歩いた。

「この角を曲がったら、到着だよ」
角を曲がると、そこには色とりどりの飾りや、電飾のついた大きな一本の木があった。

「「綺麗……」」
と、黒猫が呟いたのと同時に、同じ言葉が重なる。
声の方を見ると、黒猫より一回り程小さな白猫が同じように黒猫を見ていた。
白猫も天使に連れられてきたようで、少し目線を上げると二人の天使がいた。

「私たちから、君たちへのプレゼント」
天使達がそう言うと、黒猫と白猫は目線を合わせて、目を細めて、近づいて、触れそうな距離で言った。
「「やっと……逢えたね」」

遠くで、クリスマスを知らせる、鐘の音が聞こえた。

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